(7)
参考人意見
◯間野参考人 おはようございます。それでは、30分という短い時間ですけれども、もしも皆様に参考にしていただければ大変ありがたく存じます。
スポーツの
成長産業化、これからの
スマート・ベニューということで、お話しさせていただきます。
ことし、2019年は、
ラグビーワールドカップがやってまいります。この
ラグビーワールドカップというのは、世界3大
スポーツイベントの第3位でありまして、夏の
オリンピックの前年に必ず、4年に1回開催されていますが、
オリンピックと連続して開催されるのが
同一国というのは初めてであります。
オリンピック・パラリンピックは世界第2位の
スポーツイベントで、この3位と2位が連続して来る。そして、
スポーツの
世界最高の祭典、ワールドマスターズゲームズも4年に1回、夏の
オリンピックの翌年に開催されるのですが、
同一国で開催されるのは世界で初めてなのです。偶然、この招致活動したものが3つ並びまして、これを
ゴールデン・スポーツイヤーズと名づけたわけですけれども、これを契機に、終わった後にもう1段
暮らし向きがよくなるような
レガシーをどうつくるのかというのが課題だと考えております。
レガシーというのは、もともと英語では遺産とか先人の遺物という意味があるのですけれども、語源はラテン語のレガタスでありまして、
ローマ教皇の特使が、
ヨーロッパ各地で
キリスト教を普及する際に教会を建てて聖書を置いてミサをするのですけれども、当初なかなか
キリスト教が普及しなかった。しかし、当時最先端であったローマの技術や文化や知識を同時に伝えることによって、
ローマ教皇の特使が去った後でも、さらに
暮らし向きがよくなったということが語源でございます。
つまり、
ゴールデン・スポーツイヤーズというのは、スタートであって通過点であってゴールではなくて、それが終わった後にさらに何か
暮らし向きをよくする、そういう
レガシーをつくり、残す必要があるというふうに考えております。実際、
国際オリンピック委員会──IOCも、
オリンピックは単なる
メガスポーツイベントではなくて、よりよい
レガシーを
開催都市並びに開催国に残すことを推進するということを、IOCの憲法とも言える
オリンピック憲章にうたっています。
実際、日本では、1964年に
東京大会、夏の
オリンピックをやって、その後、冬を2回やっています。例えば
東京大会であれば、東海道新幹線、
首都高速ができた、無形の
レガシーとしてはNHKが
衛星放送の技術を開発したり、警備員が足りないので
警備会社ができたり、あるいはファミリーレストラン、ほかにも選手村のお風呂をつくるときに左官屋さんが間に合わないというので、プラスチックを成形して
ユニットバスをつくるという新しい
ビジネスが生まれたりしています。ほかにも、1972年の
札幌大会では、地下鉄、地下街、
道央自動車道、
高度経済成長と相まって、スキー、スケートが国民に普及、浸透した。1998年の
長野大会でも、新幹線や
高速道路、無形なものとしては一校一国運動といいまして、小中学校で特定の国を定めて、その国の歴史と文化を勉強して応援するということが行われました。いわゆる
国際理解教育のはしりです。これは非常にすばらしい取り組みだということで、その後の
オリンピックでは、必ず
開催都市に引き継がれているものであります。
では、この2019~2021年の
ゴールデン・スポーツイヤーズにどんな
レガシーが考えられるか。リニアモーターカーも間に合いませんし、
水素社会も間に合いません。しかし、多分、いろいろな新しいことが生み出されると思います。その一つが、
スポーツの
成長産業化であると、政府では考えております。
2015年に
スポーツ庁ができたこともありまして、
スポーツ未来改革会議というところで
スポーツの
成長産業化を平成28年から議論してきております。その中で、一つ、
スポーツ市場規模の拡大ということで、現在5.5兆円のものを2025年までに15.2兆円まで引き上げるという
数値目標が出されました。なぜかといいますと、例えば一つのマクロの理由としましては、
EU諸国と日本の
スポーツ産業を比較した場合、全産業に占める
スポーツ産業の割合が
EU平均よりも日本ははるかに低くて、下から数えたほうが早い。さらに、
スポーツ産業で雇用している人数を見ますと、日本は
最低レベルである。つまり、逆に言うと、伸び代があると判断したわけです。まだ未着手、未開拓な領域だということであります。
では、この5.5兆円を15.2兆円にしていく、その内訳を見ますと、まず、1丁目1番地で議論をしたのが
スタジアム・
アリーナ、
スタジアムを核とした
まちづくりです。現在の5.5兆円の中で、この
スタジアム・
アリーナが2.1兆円で一番割合が高い。ここを最初にキックして、
スポーツの
成長産業化を回していこうということを政府では議論いたしました。
実際、総理を本部長とする
日本経済再生本部が立てた
日本再興戦略は、日本の最
上位計画でありまして、毎年ローリングされています。この2016年版に、初めて、新たな
有望成長市場の創出として、
スポーツの
成長産業化が挙げられました。それまでは
スポーツのスの字も出てきたことはなかったのですけれども、今言いましたように
ゴールデン・スポーツイヤーズがやってくる。そして、2015年に
スポーツ庁ができて新しい
政策づくりが始まった。加えて、諸外国と比べておくれている、つまり、それぐらい伸び代がある。とりわけ
スポーツ産業に関して言いますと、
ドメスティック産業です。それによって、例えば外資だとか国際的な
知的財産といった、いろいろな問題がなくて、例えば広島に新しい
スタジアムをつくったとしても、そこに何か外資が入ってくるわけではないのです。純粋に内需として成長していける可能性があるということで着目しています。
その中でも、まず、
スタジアム・
アリーナ改革です。これまでの
コストセンター──税金を支出するものから、
プロフィット──稼げる施設に変えていこうということが最初にうたわれています。その中で、
スマート・ベニューの考え方を取り入れた多
機能型施設を整備していこうということです。
ベニューというのは、英語で人が集まる場所という意味です。スマート・
スタジアム・
アリーナでもよかったのですけれども、
スタジアム・
アリーナを
ワンワードで置きかえて、
ベニューと表現しております。
この
スマート・ベニューそのものは、
日本政策投資銀行の中で研究会がつくられて生まれた言葉であるのですけれども、これからの
人口減少・
少子高齢化社会の中で
コンパクトシティーを目指していく、その中核に多機能・複合型の
スポーツ施設を置いて、
まちづくりにおけるさまざまな悩み、課題を解決していく施設にしていく。これが多分、日本の
スポーツの
成長産業化につながるとともに、日本のさまざまな諸課題の解決にもつながる。
これまで、ともすると
スポーツ施設は、少し離れた、やや不便な場所にありました。しかし、2011年以降、その考え方が少しずつ変わってきています。というのは、日本におきまして、さまざまな
自然災害があって、非常時には体育館やさまざまな
スポーツ施設が
避難施設になり得る。体育館があるから避難ができた、あるいは、グラウンドがあるから
仮設住宅が建てられたといったことがあって、余り離れた場所につくると非常時に有効に使えないのではないか、なるべく町なかにつくっていこうという動きが出てきております。
では、この
スマート・ベニューなるものに、欧米ではどのような事例があるのか、お示ししたいと思います。
多機能・複合型と言いましたが、多機能というのは、同じ場所でいろいろなことができるということです。これは
ポーランドの首都、ワルシャワにあります
国立競技場の例ですけれども、2011年に5万8,000人を収容する
スタジアムが、
国別サッカー大会であるユーロを2012年に開催するための会場としてつくられたのですが、そこでは
バレーボールの
世界選手権もやるし、
オートバイのレースもやるし、何と、インドアで
ウインドサーフィンの試合もやる。普通、これは信じられませんね。どんなからくりがあるか、ちょっと
参考映像をごらんください。
(動画を再生)
これは模型でありますけれども、
ポーランドの国旗にちなんで赤と白、外壁が全部
LEDパネルでつくられているのです。これは
サッカーをやっているときの映像です。上に
センタービジョンがあります。これは
音楽コンサートをやっているときのものでありまして、ロビーとか、
ビジネスラウンジとか、ファンクラブの
ラウンジとか、こういったいわゆる
VIPルームも非常に充実しています。ここは、
音楽コンサートもやりますので、屋根が必要だということで、
開閉式の珍しい、
センターから周りに広がっていく
幕屋根構造をとっています。屋根をつけることによって、多機能化できるということです。
それで、なぜ
ウインドサーフィンもできるのかというと、床に理由がありまして、これがそうなのですけれども、周りが灰色に見えていますが、実はここは全て
コンクリートのスラブで打ちっぱなしになっています。
サッカーをやるときは、天然芝のビッグロールを持ってきて、それを引いて養生して
サッカーをやる。
バレーボールをやるときは
バレーボールのコートを置く。
オートバイのレースのときは
オートバイの
レースコースを置いて、
ウインドサーフィンをやるときは柵をして水を張って、片側から巨大な扇風機で風を起こすのです。つまり、
スタジアムイコール芝と思い込んでいますけれども、こうすることによって多機能化ができているという例であります。
(動画を再生)
ほかにも、これは、南部のアトランタにあります、アメリカで今最も新しい
スタジアムです。ここでも、当然、屋根が必要だということで、
通常スライド型が多いのですけれども、ここはカメラの
シャッター型の
開閉式の屋根を使っています。この
シャッター型の屋根は、もともと上海の
テニスセンターで日本人が設計したものを採用したものです。こんなことをすることによって、
スポーツ以外に、
コンサートやその他のことでも使える。
(動画を再生)
ほかにも、これは、ドイツの
可動式屋根と、
スライド式の芝のピッチです。これは、
コンクリートの上に芝が
スライド式に入ってくるのです。屋根も
開閉式にしておりまして、これでずっと押していくような
スタジアムもあります。
今度は、複合型ということで、
スポーツ以外に、
スタンド下やその他にさまざまなものを一緒に加えていくものを紹介します。
例えば、これはリコー
アリーナというイングランド・コベントリーの
アリーナでありますけれども、もともと
サッカースタジアムでしたが、今は
ラグビーチームによる運営がされています。収入のうち
ラグビーは3分の1でありまして、それ以外にテナント、
スタジアムスポンサー、カンファレンス、ホテル、エンターテインメント、
コンサートなど、多様な収入源があります。さまざまなホールに加えて、
ラウンジやスイートルーム、ホテル、レストラン、そして、カジノ──イギリスで一番床面積の広いカジノは、このピッチの下にあります。
(動画を再生)
これは、スイスの首都、ベルンの例でありますけれども、ここも
スタジアムだけでなくて、教育やショッピングやいろいろなものが複合化しています。スイスは日本よりも気候が厳しいので、実は
スイスリーグは人口芝で行っています。その結果、さまざまな、ここにあるような効果が出てきております。
(動画を再生)
ちょっとこれは、違和感を感じませんか。
スタジアムで騒々しいところに高齢者の
賃貸住宅が107戸あって、既に満室だというのですが、別に
サッカー好きのお年寄りがここにいるのではないのです。
居住者用の特別な
ラウンジがあって、そこから観戦でき、試合がある日に何が起こるかというと、子供や孫がやってくるのです。もちろん便利な場所にあるということもあるけれども、日本よりも
核家族化が進んでいますから、それが嬉しいのです。つまり、意外と
スタジアムとミスマッチしそうなものでも、組み合わせによっては、町なかで複合化していろいろな効果が得られるという例であります。
ほかにも、メキシコシティーでもデパートや小売店、映画館、レストラン、フィットネスジムなどと複合化している例が出たり、これは、野球場ですけれども、メジャーリーグのアトランタブレーブスの本拠地で、レストラン、ショップ、ホテル、シアター以外にもオフィスやマンションなど、エリア一帯で開発している例が出てきています。つまり、点ではなくて面──エリアで考え始めているということです。
これは、ヨーロッパ固有のものではなくて、お隣の韓国ソウルでも、2002年ワールドカップのときの
スタジアムでは、既に映画館、ディスカウントストア、売店、
スポーツセンター・サウナ、
スポーツショップ、公共文化施設、食堂、結婚式場なども併設していますので、我々東アジアの文化の中でも、こういうものは決してできないわけではない。さらに言うと、東京ドームがもうあるわけです。これは多機能・複合化の世界最先端の例だと思います。水道橋のとてもいい場所にあって、プロ野球のジャイアンツのホーム
スタジアムなので特殊だと思っていますけれども、日本の風土や歴史や税制や法律の中でも、こういったものができないことはないのです。
政府がこれに注目している理由としては、実は、
スタジアム・
アリーナの新設・建てかえ構想が全国に73件あります。これを、今までのようなただの体育館とか陸上競技場にするのではなくて、もっと稼げる、
プロフィットセンターにしていく。そうすると、今、
スポーツの
成長産業化で名目GDPを600兆円まで100兆円上げようとしていますが、この100兆円のうちの10兆円ぐらいに貢献できるのではないのかと考えているわけです。とりわけ大切なのが民間との連携で、
スポーツ庁の中に官民連携協議会というものをつくりまして、鈴木大地長官を会長として協議を進めています。既に、
スタジアム・
アリーナの改革ガイドブックなるものを出しています。
我々も、通常は、都市公園法の制約を受けて、今言った多機能・複合化ができないと考えてきたのですが、今般、国土交通省も含めて法律を点検したところ、法律に瑕疵はなく、むしろ条例に問題がある。例えば、公園の中で花火やたき火は危ないから禁止、でも、限定列挙するのが難しいから裸火禁止というと、厨房でも火が使えなくなったり、安全なことに配慮し過ぎたために自由度を失ってきているということがわかってきています。
そして、さらに、民間資金をどう活用していくのかということについても、プロセスガイドというものを作成して提案しています。
今見ていただいたものをそのままやっても、ただヨーロッパ、アメリカに追いつくだけでありますので、追い越すには、やはり、日本が持っている最先端のIT技術を使ってはどうか。NTTやソニーやNHKなど、世界的な企業が今、
ゴールデン・スポーツイヤーズということで、さまざまな技術を
スポーツに向けて使い始めています。
3Dホログラムという立体映像で、鏡なしでも見られるようなものがありますけれども、こんなものがあると、
スタジアムや
アリーナでも全く新しいエンターテインメントができる可能性があります。例えばの映像ですけれども、これは、ある体育館、
アリーナでの3Dホログラムを使った例でございます。
(動画を再生)
子供たちが見ているのですけれども、こういうものが技術的にできる時代になってきていて、ただ単に昔からの
スポーツあるいは
音楽コンサート以外のものにもチャンスが出てきている。
(動画を再生)
ほかにもさまざまな技術がありまして、例えば、富士通がやっている技術は、体操の自動採点というもの。白井健三選手の4回転半ひねりが余りにも早過ぎて、肉眼で採点ができなくなってきている。それで、カメラ、ビデオ、AIによる同時測定を開発されています。2020年の
オリンピックでは、体操競技は恐らく自動採点化されます。国際体操連盟会長の渡邊守成さんは日本人ですけれども、彼の国際連盟の会長選挙の公約が、この自動採点なのです。ここにありますように、わざを見ながら次々と人工知能で自動採点していっている例でございます。
(動画を再生)
ほかにも、障害者
スポーツに関しても、パラリンピックに目が行きがちですが、パラリンピックでは動力は使ってはいけないのですけれども、一般の人たちは義肢装具に今、ロボティクス──動力を使うようになってきています。そういったことを前提とした競技会、スイスで始まったサイバスロンという新しい障害者
スポーツも出てきています。
(動画を再生)
ほかにも、日本の中で新しい
スポーツをつくろうという動きが出てきていまして、例えば、テクノロジー──バーチャルリアリティーやARを前提として、あるいはプロジェクションマッピングなどを使った新しい
スポーツが、東大工学部、慶応大理工学部の先生たちを中心につくられ始めています。これはVRゴーグルをしているところ、これはボッチャのプロジェクションマッピングを使ったもので、新しいものです。
(動画を再生)
一方で、テクノロジーとは対極で、ゆるキャラならぬ、ゆる
スポーツもつくられ始めています。ばかばかしいことなのですけれども、ハンドソープをつけて手をぬるぬるにしてやるハンドボールや、ボールにちょっと特殊な工夫をしまして、ボールを激しく扱うと赤ちゃんのように泣いてしまうもの。これは先進技術を使って舌の動きだけでやるコンピューター上のスカッシュ──スカッチュという名前をつけています。これは音声だけでやるお相撲ですが、お年寄りに人気で、ある会社から商品化されました。こんなものを使った運動会をやろうなどという動きも出てきています。
(動画を再生)
そして、e
スポーツです。日本ではまだまだゲームだと言われていますけれども、世界には1億3,000万人以上のプレーヤーがいます。既にもう100億円を超える大会も出始めています。昨年のアジア大会では公開競技で、2022年のアジア大会では正式競技になりますし、ことしの茨城国体では都道府県別対抗戦が文化行事として行われます。IOCでも既にe
スポーツを競技化するかどうかという検討が始まっているということであります。
(動画を再生)
そして、やはりアーバン
スポーツです。広島県がいち早く手がけましたFISEは、昨年4月6日~4月8日に開催されまして、体操競技をストリート化したパルクール、
スポーツクライミング、BMXなどが行われました。昨年、競技者が31カ国から399人来まして、来場者が8万6,000人あった。本場フランスでは、これは40万人を超えるという話を聞いたこともございます。
これからの
スポーツの
成長産業化の一つの例として
スタジアム・
アリーナを取り上げましたけれども、
スポーツがある日にはCOI──コントラクチュアリー・オブリゲーティッド・インカム、固定収入を最大化し、
スポーツがない日のほうが実は多いので、施設の多機能・複合化をして、エリアマネジメントにより全体の価値を上げていくことが必要だと考えております。その中でも、さまざまな大義と合意形成プロセスが重要であったり、町なかに一団の敷地を確保するとか、多目的利用可能なサーフェイスを導入していくことなどによって、
スタジアムを核とした
スポーツの
成長産業化が促されるのではないかと思っております。
時間になりました。どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)
2:
◯北村参考人 北村と申します。よろしくお願いします。
本日はお招きいただきまして、どうもありがとうございます。私どもが今やっている事業を中心に、きょうはお話しさせていただきたいと思います。
まず自己紹介です。広島生まれだということを強調するような自己紹介で恐縮なのですけども、広島生まれ、広島育ちで、修道高校、広島大学医学部を卒業しまして、選んだ診療科が放射線科、放射線診断科という科になります。2000年に起業いたしました。きょうの話の中心ですけれども、遠隔画像診断の会社を起こしまして、2007年から代表を務めております。2015年からは霞クリニックという、検査を中心とするクリニックの院長も兼務しております。
では、まず最初に、弊社の事業内容を簡単にまとめたビデオがありますので、ちょっとごらんください。
(動画を再生)
グーグルとかGCPとかという言葉ばかりで、グーグルの回し者かと思われるようなビデオで恐縮なのですけれども、実は弊社はグーグルのテクニカル部門のパートナー企業に認定されまして、昨年、サンフランシスコと東京で開催され、サンフランシスコでは2万人~3万人参加したグーグルの基幹イベントである会議に、日本からは弊社を含め二つの企業だけ招致されました。東京で開催された会議でグーグルが弊社の事業を紹介する目的でつくってくれたビデオが簡単にまとめてあったので、御紹介しました。
では、これからもう少し詳しいところを御紹介してまいりたいと思います。
会社概要ですが、名前の由来は、メディカルネットワークシステムズの頭文字をとったエムネスになります。事業内容等はこれから御説明申し上げます。
きょうの話では付随になるのですけども、クリニックでは、広島大学病院の近くで、MRI2台とCTを1台置いて、大学病院あるいは地域の開業医から依頼を受けて、検査をしてレポートをつけてお返しするという仕事をしております。
ビデオの中にもありましたが、外観です。1階、2階がクリニック、3階に白衣を着ない医師が勤めています。
改めて、画像診断医とは、余り聞きなれない診療科の医師だと思います。X線、CT、MRIといった検査の画像を見て、病気があるかないか、あるいは、病気があったときにそれが良性であるか悪性であるかといったところを読み解く医師の集団です。当然のことながら、内科、外科の先生にも画像を見るのが得意な方がいらっしゃいますので、その先生方も画像診断医と呼んでおかしくはないのですけれども、最近では、専ら画像診断に専念する医師の集団が放射線診断科、放射線診断専門医ということになります。通常、治療をしたりして患者さんとお目にかかることは少ない診療科です。ですから、右のほうに書いてありますが、縁の下の力持ちとか、黒子のような存在であります。
この画像診断医が、実は、日本には圧倒的に足りない。これが1番の問題点であります。ちょっとわかりにくいスライドになっていますが、これは、OECD加盟国の分布を示しているグラフで、横軸が人口100万人当たりのCT、MRIの台数、縦軸が100万人当たりの放射線診断医の数です。日本は、圧倒的にスキャナー装置はたくさん入っていますけれども、放射線科医の数は圧倒的に少ない。1台当たりの放射線科医の数は、ある統計によると0.2人、ブービー賞である韓国の5分の1ぐらいしかいない。広島県も漏れることなくといったところになります。
アメリカと最もよく比較されるので、アメリカだけをとった対比ですけれども、CTの台数で言いますと、日本には約2倍ありますが、アメリカを1とした場合、放射線診断医の数は0.28になっています。
そういう状況下、どのように今、画像診断が行われているかというと、1番左ですが、放射線診断医がいる施設は、放射線診断医が見ています。いないところは、先ほど言いましたように、内科、外科、整形外科の先生等々が画像をごらんになっている。あるいは、外部に委託する。読影というのは画像を読み解くことですけれども、これがまさに遠隔画像診断です。
言葉としては、最近、広まってきているのですけれども、実は、弊社の起業時は、フイルムを郵送してもらって、あるいは、私が医療機関に出向いて読影をしていました。これを圧倒的に便利にしたのがIT革命と言われるものだと思います。装置そのものから出る画像が、以前のフイルムをかけて見るところからモニターで見られるようになったことが一つ、それと、インターネットの普及、中でも光ファイバーが広まったことによって、どこでも遠隔画像診断ができるようになったということです。
ビデオの中にもありましたが、もともと私は、少し古いデータですが、広島県は山間部、島嶼部が多く、全国で2番目に無医地区が多いところで、その役に立てないかといったところで起業しました。フイルムで見始めたのですけれども、いざやってみると、山間部、島嶼部もそうなのですが、実は、都市部でも診断医が足りない。ですから、広島市の結構大きな病院からの契約もいただいております。これまで広島県内を中心に契約をしてきたのですが、きょう御説明するように、クラウドでデータを管理できるようになって、全国あるいは世界中どこでも画像診断できるという状況になってきております。
エムネスとはどういう会社かというと、画像診断をするのが根幹であります。常勤医──会社勤めの医師が11名、これは手前みそですけれども、全国最多の
センターになります。起業時は、遠隔画像診断
センターは全国でも5~6つだったのですが、現在は70~80あると言われています。その中で、常勤医の数は1番で、かつ、今、非常勤医もこのぐらい抱えております。
もう一つ、弊社の根幹は、画像を見るために必要なツールを自社で開発し、提供している。これが、冒頭ありました、グーグルクラウドを使ったシステムということになります。医療機関で撮影された画像をクラウド上にためて、それを見る。見る画像がたくさんあって、1枚1枚開いていくようなことをしていると、本当に時間が足りませんので、ソフトウエアのようなものをつくりました。これも動画でお示しします。
(動画を再生)
今のは、画像枚数としては決して多くないのです。何百枚、多いときには2,000~3,000枚の画像を見ながら、我々は診断していきます。これを、クラウドがないときは、ローカルで、病院の中のシステムで動かしました。これを遠隔でやろうとすると本当に大変だったのですが、今のIT技術の進歩で可能になったというわけです。このシステムをルックレックと名づけて、いろいろ展開しています。
特徴は、グーグルですから、パブリックのクラウド上にあるということ。この最大の利点は、世界中のどこからでも見られるということになると思います。何がすごいかというと、先ほど言いましたように、従来の方法ですと、病院の中あるいは先生が使われるパソコンの中に独自にソフトウエアをインストールする必要がある。当然、パソコンの機器の更新のタイミングで、医療機関はまた別途費用がかかってくるのですけれども、クラウドを用いると、半永久的に、インターネット環境と、弊社の場合であればグーグルアカウントさえあれば使えるというところです。いつでもどこでもというところです。
最初に写真をお見せしたのですけれども、弊社の読影医の半数以上が女性です。今まさに働き方改革と言われていますが、在宅で、自宅で仕事をしている女性が半数おります。従来はVPNを組んで大変だったのですけれども、クラウドを用いることで簡単にできるようになりました。
当然、皆さんが1番心配されるGAFAの問題等もあります。グーグルは大丈夫なのかといったところです。ただ、我々がずっとやってきまして、むしろ、GAFAこそセキュリティーに1番気を使って、力もお金も使っているのではないかと思います。アメリカ等のいろいろな基準もクリアされていますし、医療というと壁を持たれがちですが、何より皆さん御自身が、日々の生活の中で、多くの方がGメールなどを使っていらっしゃいます。当然、ここに準拠して、我々もシステムを構築、運用しております。
このスライドは、従来のオンプレミスとクラウドとの比較です。いろいろなところで言われておりますので、あえてここで細かいところまでは述べませんが、一つ言わせてもらうならば、広島県もそうですし、昨日の地震等もそうですが、昨今、10年に一度、100年に一度といった
自然災害が毎年のようにどこかで起こっています。病院が流されたりつかったり倒壊したりしたとき、データはなくなります。病院も困るでしょうけれども、1番困って不幸なのは患者さんです。そういった
自然災害に対するというところ一つをとっても、クラウドのメリットはあるのではないかと思います。
もう一つは、AIです。まさに我々の業界の、放射線診断医が少ないといったところを補うための一つの手法としてAIがあると思うのですが、AIを開発していくには、教師データが必要となります。日本は医療大国、データ大国と言われていますが、オンプレミスでは病院ごとにデータがあって、残念ながら分散しているのです。これを1カ所で管理しようとすると、やはりクラウドのほうが大いにメリットがあるといったところで、弊社は3年ほど前から数社あるいは大学の研究機関等と共同研究、開発をして、最初に御紹介した霞クリニックのほうで、実験的に、日々AIを用いております。
その中の一つ、東京大学発ベンチャーのエルピクセルという会社は、画像診断領域では今、日本の中では最先端を走っている会社の一つです。早くから共同研究契約を結びまして、ごらんいただいた脳動脈瘤の診断、あるいは、後で御説明します乳腺とか、整形外科領域の半月板など、三つ、四つの分野で今、試験的に使っています。もともと私はAIについてはどちらかというと批判的な立場で、相手を非難するのであればそこを知らないといけないということでAIにチャレンジしたのですが、今ではもう、完膚なきまで打ちのめされたという感じで、AIに助けてもらっています。
例を一つ、これも動画でお示しします。
(動画を再生)
AIは、開発するにはたくさんのデータが要ると言われてきましたし、言われています。けれども、動脈瘤のAIは、今、8割5分から9割程度の指摘率、感度があります。これをつくるのに用いたデータは、500~600例です。従来言われていた何万、何十万というデータは必要としていません。何が大切かと技術者に聞くと、いかに正確な教師データを用いるかといったところのようです。単純に言いますと、画像だけが何十万あってもだめで、今ここでお示しした、正確な丸の位置、あるいはその大きさをAIに覚え込ませることができれば、より少ない症例でもAIを開発できる。ただ、医師は忙しく数が少ない中で、AIをつくるためだけに専念できる状況にありません。ですので、当社はこれを開発して、診断する過程でAIに助けてもらいながら、かつ、AIもブラッシュアップして、さらに精度を高めていくシステムを、今、動脈瘤だけでなく、複数のアルゴリズム作成にチャレンジしています。
もう一つ、簡単に御紹介しますと、社会的に大きな問題になっている乳がんです。マンモグラフィーあるいはエコー──超音波で検診はされますが、手術をする前に最近ではMRIを使って、造影剤を入れて、より詳しく検査されるのが一般的になってきています。乳腺を上下に20cmと仮定しますと、MRIは1mmの幅で画像が撮れますから、200枚撮れます。この200枚の画像を、そこに静脈に造影剤という薬を入れて、入っていく様子を経時的に撮っていくのです。左側にあるのがそうなのですけれども、入り始め、中間相、最後というふうに撮って、結局、800枚あるのです。これを我々は常に見ていかないといけない。人間ですから、やはりどうしても見落とし、見逃しが避けられません。
そこで、今開発中のAIですと、右のほうにお示ししていますが、ちょっと専門的になり過ぎるのですけれども、瞬時に病気がある部位だけでなくて、造影剤の入り方を見て、グレード1~5までの悪性度のクラス分け──世界的にしようという流れになってきていて、5になるほど悪性度が高いのですが、そこまでもやってくれる、かなり精度の高いものができつつあります。今、乳がんだけでなく肺がん等々も、グーグルのブレーンチームとも一緒になって開発しているところです。
以上のように、エムネスというのは、AIを気軽に簡単に利用できる、クラウド上のプラットホームを使って遠隔画像診断するということを日々やっているわけですけれども、ここで導入事例を二つほど御紹介したいと思います。
一つは、もしかしたら御存じの方もいらっしゃるかもしれません。1年少し前に東京銀座にメディカルチェックスタジオというクリニックがオープンしました。これは、脳ドックを専門とするクリニックで、マスコミでもかなり取り上げられているのですけれども、MRI2台を置いて、売りは、早くて安くて質が高いというところです。ちょっと下世話な話になりますが、2万円を切る価格で脳ドックをやっておられ、来院されてから病院を出るまでの時間は、最短で15分です。予約から結果配信まで全てウエブ上で完結するようなシステムになっております。これを可能にしているのが実は裏方で、先ほど来お見せしておりますルックレックを用いて診断するということです。
大事なのは質の部分です。なぜ質が担保できているかというと、ここに書いていますように、最初に私のような放射線診断医が読影します。脳ドックですから、脳外科医が2番目に読影します。最後に院長先生が確認する。これは、何度も言って恐縮ですけれども、クラウド上にデータがあるから、どこでも見られるということです。
ここのすごいところは、1日50人から、多いときで80~90人の検査をして、既に1年少したちますけれども、1万5,000人やっています。これだけ読むとなると、いかに遠隔でするとしても人が必要なのです。最初にお示ししたエムネスの非常勤医がふえています理由は、こういったところにあります。
このクラウドシステムができる前、まだインフラが整っていない状況では、弊社は、広島県に根差した、広島県の画像診断ということでやってきました。けれども、このシステムができ上がりまして、一気に非常勤医もふえています。先ほどもちょっと御紹介しました女性の医師、そして、定年退職された先生方、あるいは海外留学中の先生も既に4名ほど、世界で仕事をされています。
残念ながら、医療の世界も、患者の皆さんにとって本当に申しわけないのですけれども、縦割りです。横のつながりがありませんでした。やって初めて私も感じたのですけれども、脳外科の先生方との協力というのがなかなかなかった。これが可能になったというところで、現在は、脳外科だけでなく、乳腺外科であったり整形外科など、さまざまな診療科の先生と画像、クラウドをキーワードに、横のつながりをつくっていこうとしております。
もう一つ御紹介するところは、広島県としてJICAから請け負っていただいているプロジェクトで、当社も法人会員になっているNPO法人総合遠隔医療支援機構が昨年から3年間のプロジェクトを承認された、モンゴルの医療支援であります。病理診断と放射線診断でモンゴルの先生方の補助、支援をしようというプロジェクトで、昨年、お互いに医師の行き来があり、この1月に理事長であります井内康輝先生が現地に行かれて、弊社の技術者と一緒に装置を設置してまいりました。それで、モンゴルの支援が始まりました。
本当に、お互いに、全世界どこでもできるのがグーグルとくっついているメリットであります。現在、フィリピン、インドネシア、ミャンマー、ネパールとの話が同時に進んできています。実現までは時間がかかるところもあると思うのですけれども、現状では、日本の医療は、まだ進んでいると思います。これを、海外に向けて手助けをするといったスタートを切っています。
これがルックレックのまとめのようなものになるのですが、ルックレックはデータを集めています。右側にあるように、集めたデータを誰がどのように見て、どのように使うかということだけだと思うのです。我々がやっていますのは、遠隔診断──診断依頼を受けて診断することですけれども、病院の立場に立つと、データのバックアップであり、今はバックアップですけれども、本システムにも十分なり得る。カルテの部分は、きょうはあえて触れておりませんが、霞クリニックは3年半ほどの電子カルテ全てをクラウド上で動かしています。延べ3万人以上のデータがあります。このデータが誰のものかという議論は尽きませんが、私どもは、医療機関のものではなく、患者さんのものだという視点で、いつでも患者さんに公開できるように準備をし、そういうアーキテクトでやっております。
ごらんいただきたいものがあります。
(動画を再生)
このサービスを、先ほど御紹介した東京のメディカルチェックスタジオにも採用いただいているのですが、あちらの施設は検診です。ですが、霞クリニックでは今週初めから、まさにこのタイミングで、受診された希望者には、検査が終わった後、バーコードリーダーを読んでいただいて結びつけるようにしました。若い方は、100%近く求められます。もう半永久的に御自身でデータを見られる。医師が見ているのと一緒なのです。ですから、転居しようと、出張先、旅行先で病気になっても、このデータがありさえすれば、ちゃんと診ていただくことが可能になりました。
夢の部分も入るのですが、ルックレックが今、目指しているところは、医療データの中で実は一番扱いにくい、データ量が重いものは何かといいますと、画像です。途中ありました、病理データが実は一番重たいのです。既に我々は一番難しかったところに遠隔画像診断というところからアプローチしたがゆえに、クラウド上で管理するものができ上がりました。あとの血液データであったり心電図であったりは、データ量としては画像データよりも軽いです。さまざまなサービスを展開されていますから、そのデータを一元管理すること。今まさにゲノムデータも出てきています。ウエアラブルでバイタルデータもとれます。そういったものを組み合わせることで、1人の個人として、包括的に、AIも利用すれば、さらに精度の高い診断が可能になるだろうといったところで、グーグル社と一緒にやっています。
以上になるのですが、最後に、少し残りの時間をいただいて、せっかくの機会なので、広島に育ちましたし、広島で何かができないかといったところで、先ほど来お話ししています脳ドックを一つ、トピックとしてお話しさせていただければと思います。
昨今、プロドライバー──バス、タクシー、電車の運転手さんが脳血管障害で、残念ながら乗客の皆さんが事故に巻き込まれるといったことがふえています。少し古いデータにはなりますが、このぐらいの数があります。どこから脳ドックを広めていくかというのは非常に難しいところでありますが、国土交通省もこのたびガイドラインにも載せられました。まさに、きょうですか、尾道市民病院で脳ドックを始められたという記事もあります。皆さんもよく御存じのウィラーというバス会社がありますが、メディカルチェックスタジオと提携されて検診をして、我々が診断します。
何が言いたいかというと、日々一番多く診断しているのが広島県の放射線科医であったり脳外科医であったりで、関東圏の診断をしているのです。広島にもたくさんMRIが入っています。診断医もいます。医師のほうのネットワーク、かつ、システム的なところはでき上がっていますので、ソーシャルインパクトボンド──SIB的な発想で、自治体として全国初の脳ドックといったところを御検討いただけると、県民にとっても幸せなのではないでしょうか。ちょっと大それた御提案で恐縮なのですが、以上で私の話を終わらせていただきたいと思います。
どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)
5:
◯杉浦参考人 皆様、こんにちは。私は、東京都
渋谷区役所、経営企画部の庁舎建設室長をしております杉浦と申します。行政の職員でございます。
本日は、このような場にお招きいただきまして、どうもありがとうございます。分不相応な身分ではありながら、
渋谷区が庁舎を建てかえるに当たりまして取り組んだ事業のスキームについてお話しさせていただきまして、何かの参考にしていただければと思っております。それでは、よろしくお願いいたします。
まず、題が、民間のノウハウを最大限に引き出す庁舎建てかえの取り組みについてということなのですが、
渋谷区は、昭和39年に旧庁舎が建築されました。ちょうど東京
オリンピックが開催されるときに竣工し、同じ敷地内に
渋谷公会堂というホールがありまして、こちらが東京
オリンピックのときの重量挙げの会場になって、それがこけら落としだったというところで始まった建物なのです。
それが、関東地方にございます庁舎は、平成7年の阪神・淡路大震災のとき、揺れも震度1か2ぐらいだったので特段、被害はなかったのですが、その震災のときの様子を見て、庁舎の耐震機能を検討した結果、全然耐震機能が足りていないというところで、実は、都合9年間くらいをかけて補強工事をしたのです。ただ、旧庁舎の建物の形状がちょっと変わっていまして、少し平たい馬蹄形のような形をしていて、補強工事を簡単にできない構造だったので、9年もかけて巨費を投じてやったのですけれども、庁舎にとって必要な構造強度をとることはできませんでした。
一旦やりましたというところで、そのままもうしばらく使うつもりでいたのですけれども、そこに来て平成23年の東日本大震災がありました。補強工事が終わった後の庁舎でガラスが何枚も割れて、ちょうど震度5強の揺れに見舞われたのですが、一部の構造部材が破損するような、かなりの被害がありました。それをきっかけに建てかえの議論が割と急に高まったというところです。
東日本大震災までは、補強工事もやったし建てかえをしようという機運は余りなかったのですけれども、そのころは築50年近くたって、設備の老朽化という話もかなり進行していました。そこに来て地震に見舞われて、庁舎の建てかえという話が急遽浮上してきたというような背景がございました。
そのような状況でしたので、実は基金の積み立ても全くなく、予算を一体どうしようという問題があり、また、敷地の中に庁舎と公会堂が1棟扱いで建っていたから、庁舎に手を入れようとすると公会堂もやらないといけないといういろいろな条件もございまして、かなりの経費を必要とするという中で、民間企業のノウハウを引き出せば、少しでも安く建てかえができるのではないかというような話が出てまいりました。
事業公募、提案プロポーザルみたいなものは、当時からいろいろな自治体でも施行されてきたと思うのですけれども、どちらかというと、事業プロポーザルというよりはコンペのような向きのものが割と多かったと思っています。特に庁舎というのは、こういう面積でこういう用途でこういう部屋が何平米で何室あって職員が何人いてと、すごく細かい設計基準を持って提案を募集することが多いのですけれども、そのときはとにかく、民間企業のノウハウを引き出すことで一体どのぐらい
区の財政負担が軽くなるかを見たいというような話もありまして、民間側の知恵を最大に持ってこれるように、こちらから余り条件をつけないで出してみたらどうかということで、
渋谷区役所の建てかえ事業手法のスキームの公募というのをやりました。
ちょうど平成24年12月に募集要項を公表し、2月に提案の締め切りをしたところ、5者の応募がありました。今申し上げました、条件をできるだけ緩いというか、付加しない形で、できるだけ民間の提案を自由に出せるようにするために、
区が最低限守ってもらいたいことというところで提案の条件を検討し、この公募の条件というところに記載したような大項目を出したのです。普通、この大項目の下にいろいろ細目が入る場合が多いのですけれども、
渋谷区は今回、本当にここに書かれているだけの条件で出しています。
実は、区役所の位置が、ここに配置図を出しているのですが、ア、総合庁舎・公会堂とある図の1番上にある1番大きなまとまりが区役所と公会堂があった敷地です。約1万2,000m2あったのです。そこに、ちょうど敷地の地続きで、今もあるのですけれども、
渋谷区立神南小学校があります。さらに、その敷地の向こう側には区役所の分庁舎があったということで、実は、ここに
渋谷区が保有する土地が、都合2万m2を超えるぐらいあったのです。
当時、その土地の有効活用ということで、容積率の緩和という、例えば公開空地をつくって高いものを建てるという規制緩和のほかに、隣の敷地の余った容積を持ってくることができるというような制度がちょうど始まったころで、それが使えるのではないかという発想があり、せっかく
区有地がここに3つ並んであるのだから、これも1回検討してもらってみようということで、このときの公募の条件として、アからウを合計した容積は全体で使ってもいいという条件を出しました。ただし、庁舎と公会堂はアの中に入れてくださいというようなことです。
庁舎の設計条件としては、6つです。免震構造、省エネルギー、環境負荷低減、維持管理費──コスト縮減、BCPの確保、規模は旧施設と同等です。本当にこれだけで出していきました。
その結果、さっきも申し上げましたが、5者応募がありました。不動産系の大手のディベロッパーと設計事務所という企業グループが5団体という形での公募でした。
実際にこのうちから1者を選んでいるのですが、きょうは、こういう事業提案の公募をかけると、どういう提案が出てくるのかを御紹介するといいと思って、とりあえず5案の概要を御説明したいと思います。
まず、A社というところは、お隣の小学校の容積移転ということで、学校というのは、校庭があって物すごく容積が余っているのです。中心市街地においても、公立の小中学校の設置が求められますから、かなり便利な場所にもたくさんあるのですけれども、ここでは、その土地の使える容積に比べると随分余っているので、まずこの小学校の容積を移転します。さらに、土地を有効に活用するために、飛び地になっていた分庁舎の土地をつけかえた形で敷地を大きくして、面積を確保するというような提案がA社の提案でした。このことによって、46階建ての高層マンションをつくります、
区の財政負担はゼロでいいですということでした。財政負担というのは、庁舎と公会堂を建設する費用のことなのですけれども、それは事業者側が全部出しますという内容でした。
2つ目のB社については、土地のつけかえだけで33階建てのマンションができますという提案でした。さっきのA社は容積も移転するので46階建ての住宅棟ができます、次のB社は33階建てですというのはどういうことかというと、高いマンションができればできるほどディベロッパーの利益といいますか、事業収支の収入のほうが大きくなるわけですから、当然それだけのものが提供できることになり、たくさん持ってきたほうが多くの住宅がつくれるわけで、その分お貸しする土地の価値が上がってくるということになるのです。金額は控えますが、A社とB社の提案の中で、やはり、住宅の分譲床の多いほうが定期借地権の提案の価格が高くなるという構造になっています。ただ、ここのいいところは、ちょっとコンパクトになっている分、工期が短いのです。当時、庁舎は早くつくりたいという希望もすごくありましたので、そういったところはB社のポイントだったというところです。
次に、C社は、使ってもいいと言った区立神南小学校と分庁舎の分は使いませんという提案で、5者の中では最も工期が短かったのですけれども、庁舎と公会堂の規模も最も小さかったです。かつ、建築計画はすごくシンプルで、庁舎と公会堂と住宅が、ほぼ縁が切れた別棟の提案でした。
次は、D社です。こちらはA者のやり方にかなり類似していて、学校の容積を移転して、かつ、区役所の分庁舎の土地をつけかえて、住宅を超高層化するという提案でした。
最後にE社は、3敷地を連続して容積を移転するという手法も可能なので、この会社は、3つの敷地を全部使い切って、建物の規模としては最も大きい規模だったのですが、庁舎と公会堂とマンションが同一の建物で巨大化するということで、最も高度利用が図られるというような提案でした。これは、住宅の階数もさることながら、その他の施設も最も大きい規模で、かつ、定期借地権の提案の価格も一番大きいものであったということです。
結論は、一番何も使わないC社の案を選んでいます。これは、
区の中に、この提案を選ぶに当たって外部専門家を交えた庁舎問題検討会という専門家の会議を立ち上げたのですが、その中で議論した内容を踏まえて、一番コンパクトで他の敷地の容積も使わないというところを持ってきました。最後は
渋谷区の考え方ということになるのですが、物すごくわかりやすくこの提案の結果を解釈するとすれば、より多く容積を差し出したほうがより高価な見返りがある、定期借地権の価格は容積を上げれば上げるほど当然高くなっている、ただし、今回のように隣地の
区有地を使うということは、そこの容積を先に持ってきてしまっているわけですから、その学校や分庁舎を将来建てかえるときには当然制限になるというようなことで、より高い価値で資産を処分していくのか、あるいは、将来隣地の活用を考えるのかということを比較検討していくべきであるというような御意見をいただきました。
ちなみに、このときに御意見をいただきました外部の専門家というのは、こちらにも書きましたが、経営コンサルタント、公認会計士、弁護士、あとは建築意匠の専門家と構造の専門家と環境分野の専門家という形でやっていただきました。この方々は、庁舎はもうできているのですけれども、庁舎と公会堂セットの建てかえの中では公会堂の建設が終わるまではアドバイスをいただくような形で参画していただいています。
それで、結果としては、公募からちょうど1年後に、C案で事業者を決定いたしました。選定の過程では
渋谷区議会の中に特別委員会が設置されまして、その特別委員会への説明や質疑等でやりとりがあった結果、
区議会がちょうどその選定の前の平成25年9月に、庁舎の建てかえを求める決議という形で、意見を議会から頂戴いたしまして、この決議が決定打になりまして、
区としては建てかえをやっていくことを決めたという経緯がございます。どの案を選ぶかは、もちろん
区が検討し、選んでいったのですけれども、建てかえを本当にやるかやらないかについては、この特別委員会の設置とその中での決議を受けたところです。ちなみに、この特別委員会は、名称を庁舎問題特別委員会といいますが、設置の段階では建てかえは決まっていなくて、さらなる補強工事をするのか、建てかえをするのか検討するというたてつけで設置されたものでした。
簡単に申し上げますが、このような形で公募した事業者と
区は、その後どうやって事業を進めていったかという御説明をさせていただきたいと思います。
平成25年12月に優先交渉権者として事業者を選定し、三井不動産を代表企業とする企業体なのですけれども、平成26年3月、予算議会であります第1回の定例会議で
区と事業者の基本協定について議案として御議決をいただきまして、協定を締結しました。協定の内容は、
区が定期借地権を設定し、事業者がそこを借りるのですが、事業者が庁舎、公会堂、分譲マンションを整備する。この庁舎と公会堂は事業者の費用負担で建設し、竣工後、
区へ引き渡す。定期借地権の面積が約4,500m2で、定期借地は約70年。借地の上に建つのは民間の分譲マンションであるというもので、転定期借地権というものをつけた分譲マンションを建てています。定期借地権の評価額は、当初154億円ということでした。この154億円で当初は庁舎と公会堂を建設するというスキームです。
今の話を図式化したものが、事業の流れにありますので、簡単に順を追って御説明します。フェーズ1で、まず、
区が敷地の一部に4,500m2の定期借地権を設定します。定期借地権の設定については、
区議会の議決をいただきました。
フェーズ2として、貸し付け契約をするわけですが、そこから民間事業者がマンションと同時に庁舎、公会堂を建設する。
区は、この建設工事には一切関与しないで、全て民間事業者が建物を建てる。
フェーズ3として、庁舎と公会堂ができ上がりますと、庁舎と公会堂の建設費用を
区がもらって
区が建設費を支払うのではなくて、
区はでき上がった建物の引き渡しを受けるというスキームです。新庁舎は昨年の10月に引き渡しを受けています。ちなみに、公会堂は、今度の5月に引き渡しを受ける予定です。それを合わせて、現在は定期借地権の価格が211億円ですので、211億円分の定期借地権の権利金と土地代の合算211億円を物として受け取るというスキームをとっています。これは、私ども、いろいろな方々に御説明するときに、代物弁済類似の手法というふうに説明させていただいています。PFI法とか市街地再開発事業とか法的手法には基づかず、事業者との協議をした結果、代物弁済方式をとるということで、まず、債権債務は借地契約なのです。一般定期借地権契約を結ぶ。そこで211億円の70年分の定期借地権の借地料が決まる。その地代の支払いを物納する契約を結ぶという内容が、今回の
渋谷区役所の建てかえプロジェクトの事業スキームになっています。
フェーズ4は、一般的な話ですが、定期借地権というのは、借地借家法で期間終了後は返還が原則ですので、今回、
渋谷区の土地も70年後に更地で返還するという内容になっています。ちなみに、マンションは分譲マンションで区分所有になりますので、区分所有者の管理組合が積み立てた解体準備金でマンションの解体をしていただき、最終的には土地を借りている三井不動産から土地を返還していただくという内容になっています。
今のが事業のスキームです。この事業のスキームで、やっていていろいろ苦労したのですけれども、やはり入り口の公募の段階で物すごく雑というか、物すごく大ざっぱに、規模は前と同じくらいで構造機能とか環境機能とかを考えてつくってくださいと言っているだけだったので、結局、その協定を結んだ後に事業者と行政とでやりとりをして設計を積み上げていく段階で要求水準というものを締結していくのですけれども、ここのところで、事業者は当然といえば当然ですが、できるだけ安いものをつくりたがりますので、
区としてはこれが欲しいというものを言いつつ、事業費の中での協議をしてまとめていきました。順番が普通と逆ではないかと思いますが、そういうことをやっていく必要がありました。
また、この手法をとると、まさにこの場が
予算特別委員会ということですが、現金の歳入歳出が発生しないので、予算について議会に諮る機会がないのです。決算議会で、借地の部分が資産で少し出てくるぐらいなのです。事業の導入の段階で
区議会とも随分協議をさせていただいたのですが、やはり、適宜、経過を報告する必要があるだろうというところで、基本協定の中に定めたのですが、
区はこの事業の進捗にあわせて、事業契約を定めるためにその内容を議会に報告するということで、議会の御審議をいただくようなスキームをとりました。
それから、事業リスクというところで、今回の建てかえのやり方としては、全て事業者が建設費を持っていただくというスキームをとるところから、リスクは原則事業者負担ということを決めました。社会常識的に、地中障害とか土壌汚染とか地主の責務があるものは当然、
区が負担しなければならないのですが、そうではない多少のインフレあるいは想定外の建設費の増については、全て事業者が持ちなさいということにしています。それを担保するためにも、ここに書いてあります事業取引の妥当性、庁舎の評価額が定期借地権の評価額と等価であることを第三者が評価するというところで担保をとり、最後のところにありますが、定期借地権の評価額が庁舎の評価額を上回った場合、差額を
区に支払うという定めをとりました。これは、先ほどの代物弁済の話に戻るのですが、あくまでも
区は公有地を適正に処分するという責務を負う中で、借地料が契約時よりも安くなるとまずいのです。当然、借地分をしっかりいただかなければ、その公有地の処分という点で大きな瑕疵になってくるのです。もし、安い庁舎と公会堂に仕上がってしまった部分は、不足分は現金を払っていただきますというような内容の取引をし、かつ、その価格をお互いに勝手に取り決めないように、第三者機関にその価格を評価していただくという形をとって進めることにしました。
この事業の特徴として、スキームの根幹となるつくり方については、こういった先例がなかったので、事業者と行政でかなり密な協議をしました。取引の妥当性のあたりは事業者の反発も非常に大きく、
区はあくまでも公有地を処分するからこういうたてつけが必要だというところで再三協議を重ねてつくり上げました。そして、そのスキームについて議会に報告して御理解いただいたという運び方をしました。その部分は、定型のスキームにのっとってやるよりも苦労の多いところではあったのですが、結果的に、私はこのスキームをとったことで、
区は随分もうかったと思っていまして、今回の建てかえ事業についてはうまくいったのではないかと思っています。
当初、建てかえを急にすることになり、そこから庁舎ができるまでの事業期間が非常に短かったことも、今回の事業の特徴ではないかと思います。
区議会の決議をいただいて建てかえにかじを切ったのが平成25年とすると、ここから5年間で新しい庁舎ができたというところでは、意思決定を早くしようという組織をつくってきたこともあるのですけれども、
区の公契約のしがらみがない中で民間がどんどん契約を進めることができるといったところも、この事業の迅速化には多分かなり役立っていまして、簡単に言えば、
区は協定を結んで定期借地権契約をとっているだけなのです。それ以外の資金の調達であったり工事の発注であったりを民間企業のスピード感で進めることができたというところで、相当にスピード感のある事業を図られたことも評価の一つだと思います。
最後に、可能な限り自由な提案を求めるということで公募をとり、その結果、苦労した部分もあったのですけれども、より迅速で、遅延リスクや延期リスクのない事業化が図られたというところは、民間企業のノウハウを最大限に生かしたと言えるところかと思うところです。また、民間企業は設計段階で安くしようとすると言いましたけれども、民間企業は民間事業者としての収支計画がある中で、少しでも事業をスムーズにやるために取りやめたい部分が多い中で、行政側がくい下がって、これはどうしても必要な機能だという交渉を重ねていくためには、行政が偉い顔をし過ぎてもだめですし、全て民間に丸投げでもやっぱりだめで、このあたりは事業者と信頼関係を構築して話し合い、そして、最終的にはいいものをつくろうという目的を達成していくのがいいというところがあります。
先ほど申し上げたとおり、ともすると議会の関与が薄くなりがちな民間主導の事業ですけれども、これは後から議会への説明が不足していたとか、結果的に住民への説明が不足していたということになると、事業の停止リスクがあると思いました。ここは説明責任というところで、行政が民間事業者と一緒にやっていくときの一つのポイントかと思っていまして、やはり丁寧で正確な説明を適宜やっていくことが重要です。基本的には、説明しないよりは、して反対を受けてもこうやりたいと言っていくことで、結果的に事業をとめることなく進めていくことができるということを実感として持っております。
区役所は無事にこの1月に開庁しました。余談ですが、今回の建てかえ事業に建設費がかからなかった分、区役所内部のインフラに随分公費を投じました。大きいものがICT基盤を全面的に刷新したことと、もう一つは、全て新しい什器──事務用の机やカウンターなどを入れかえたことです。合算すると50億円ぐらい投じているのですが、それによって働き方改革にこれからどんどん力を入れていこうというところで、働く場所を選ばない仕事づくり、仕事ができる環境を整えて今後の行政課題に対応していくというところで、
区のワークスタイル改革にも貢献できたと思います。このスキームをとった結果、そういったことにも予算を振り向けることができたということも、もう一つ、副次的なところで事業の評価となると考えております。
本日は、このような機会を与えていただきありがとうございました。事業の紹介ということで、発言とさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)
(閉会に当たり、
委員長が、御礼の挨拶を行った。)
(10)閉会 午後2時43分
発言が指定されていません。 広島県議会 ↑ 本文の先頭へ...